ヘルパー不足が「権利の空洞化」を生み出している
JBpressの報道によると、脳性まひによる重度障害を持つ女性が、契約していた訪問介護事業所の閉鎖により、3カ月以上にわたってヘルパーによる介護を受けられない状況に陥りました。代わりに介護を担ったのは同居する80代の母親です。女性は「ケアを受けられなくなるのは死ねと言っているのと同じ」と訴えています。
この女性には介護を受ける資格があり、制度も存在しています。しかし、実際に訪問する人材がいない。行政が給付量を削ったわけではなく、現場に働く人の「残数」が事実上のサービス上限になっているのです。
日本介護クラフトユニオンが2025年4月に公表した緊急調査では、訪問介護事業所の管理者の89.4%が人手不足を理由にサービスの依頼を断った経験があると回答しました。ケアマネジャーの68.3%は、必要なサービスを盛り込んだ介護計画を作れなかったと答えています。代替策として家族介護に頼った例が41.4%、何の手当てもできなかった例も19.3%にのぼります。
介護だけではない——路線バスでも同じ構図が
同様の問題は公共交通にも広がっています。長崎県の長崎自動車は2025年4月のダイヤ改正で、運転手不足を主因として平日223便、土曜日110便、日曜・祝日92便の大規模な減便を実施しました。削減は通院や買い物に利用される午前9時から午後3時台に集中しており、自前の移動手段を持たない高齢者への影響が特に大きいとされています。
長野市ではアルピコ交通と長電バスが計6路線の廃止を申し出るなど、全国各地で同様のケースが続いています。札幌市は2026年度予算で約36億4200万円の生活交通確保対策を掲げ、運転手確保から代替交通整備まで公費で支える構造となっています。人材不足がもはや一企業の損益問題ではなく、住民生活を維持するために自治体が財政を投じなければならない段階に達していることがわかります。
業界で働く人・経営者にとっての含意
訪問介護の現場では、事業所の閉鎖や人員不足が利用者の生命線に直結することが、今回の事例で改めて浮き彫りになりました。管理者や経営者にとっては、採用・定着の問題が経営課題にとどまらず、地域の福祉インフラを支える責任と表裏一体であることを示しています。介護・医療分野で働くことを検討している方にとっては、こうした社会的需要の切実さが、この仕事の意義を再確認させる材料にもなるでしょう。